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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「左馬どの、左馬どの。なおお訊きしたいことがある。もういちど姿を見せられたい」

「おう、何事」

ちらと、また光春が、下を覗いた。

「ほかでもないが、いま受け取った数々の重器のうちにも、かねて明智衆にありと聞く、世に名高い吉広江の脇差は、目録にも見えぬが、お取り出しを忘れたのではないか。――もし御失念なれば、庫中からお持ち出しになる間、お待ちいたしてもよいが?」

すると、左馬介光春は、呵々と笑って、

「あれは平常、日向守様が、特に御鍾愛の名刀。わけて明智家には、由緒ふかい品でもあれば、やがて死出の山にて、光秀様にお会いしたとき、お手渡しいたさんものと思うて、わざと取りのぞいておいたのでござる。――はや火も本丸まで燃えついて来たようですから、余事を申しておる遑もない。監物どの、いざ、攻めかかられよ」

ことばの下から、ぐわんッと異様な音がした。光春は一閃の火光と黒けむりの裡にかくれ、矢倉の狭間のすべてから、同時に濛々と硝煙がふき出した。

次の一瞬には、轟然と、全楼ことごとく、一火となって崩れて来た。火薬を積んで自爆したのである。

坂本城は、明智方最後の一拠地だった。