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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

秀吉はやや声を高めて、

「一同、いま立ち帰ったぞ、留守中の難儀、察し入る。御苦労だったの」

列をそろえていた家士たちは、膝までの手を、さらに、膝の下まで下げた。

石段の上、山門のふところには、親族の老幼と、主なる家臣だけが迎えていた。秀吉は、そこでは左右へ向って自分の健康を示す笑顔を撒いて見せただけだった。わけて妻の寧子へは、ほんの一顧を与えたのみで、ことばもかけず山門を通った。

けれど、そこから先の良人の姿には、たえずつつましやかな妻の影が添っていた。ぞろぞろと従って行った小姓たちも、また一族の誰彼も、寧子のことばによって、みな休息につくべく去り、或いは、

「後刻、また」

と、縁の上で、礼のみを送って、各※(二の字点、1-2-22)の居るべき所へ姿をかくした。

天井の高い御堂の中に、低すぎる燭台がただ一つぽつねんと燈っていた。そのかたわらに繭のように真白い髪の人が朽葉色のうちかけを着て、ひそと坐っていた。いうまでもなく秀吉の母である。後にやがて子が太閤となったときは大政所とあがめられたひとである。

「こちらにおいでか」

妻に導かれていま濡縁へ上がって来た子の声がその陰でする。