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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

今権六がいわれるまま強くこすっている所を見ても、すぐ毛穴から脂肪のような赤い血がふき出る程であった。

「大殿。ただ今、神官や村長どもが、御門出の祝いにと、この山の渓流で漁れた串魚やら餅など捧げ持って見えましたが」

幕の裾から武者のひとりが告げると、勝家はあわてて、もうよいと権六の手を退け、具足を纏い直していたが、傍らの佐久間玄蕃允盛政をかえりみて、

「お汝、村人どもの挨拶をうけてこい」

と、いいつけた。

玄蕃が立ちかけると、玄蕃と並んでいた毛受勝助家照が、その足もとを遮るように、

「いや、大殿」

と手をつかえて、勝家の大きな体を仰いだ。そして、

「村人どもの素朴な志、寸時なりと、大殿御自身、会釈をお与え遊ばしては戴けますまいか」

と、わが事のように願った。

「玄蕃、立たんでもよい」

勝家は、毛受勝助の乞いを容れて、自身、そこで神官村人を引見して、祝いをうけた。

またすぐその後で、幕僚たちと共に、献物の串魚なども披いて兵糧をつかい始めたが、毛受勝助には、口もきかず、眼ざしも向けなかった。

勝助の諫言は、もっともなことだった。勝家も、それが頷けないほどの愚将ではない。