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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「そのことは、ひとえに、宿老方のよろしきように」

と、さきに一捷を掴した秀吉から、謙譲を示したことが、まず非常に、会議の進捗を円滑にしたのである。

「では、一応、大老のお考えを……」

と、宿老格の丹羽、滝川などが、ここで前にはまるつぶれとなった柴田勝家の顔をたてて彼を中心に合議して原案をまとめにかかった。

しかし、すでに秀吉の存在は、何となく、冒し難いものになっている。纏められた原案は、やはり一応は、秀吉の前にも送られて来て、

「御意見、どうあろうか」

と、彼の内見を求めざるを得なかった。

「――筆を」

秀吉は同朋からそれを求めて、原案を一閲していたが、筆に墨をふくませると、無造作に三、四項へ棒を引き、かつ、私見を書き加えて、

「かようにされては、如何」

と、訂正して返した。

ふたたび勝家の手に廻されてくる。勝家は苦々しい容子である。黙思久しかった。勝家の望みとしていた項目にベタベタ墨が引かれているからである。けれど、秀吉は自分へ割りあてられて来た江州坂本の知行分にも自分で棒を引いて消していた。そして秀吉自身は、ふつうの諸将並に、わずか丹波一国を書き入れているに過ぎないのである。