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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「では、梯子を上がった所まで通せ。秀吉、ちと疲れ気味にて、お城よりさがるやいな、薬湯を服んで臥せておりますれば……と断ってな」

「承知仕りました」

静かに、茂助の足音が、中二階の段を降りてゆくと、間もなく、ふたたび上がって来る人の気配が、そこの狭い板の間にうずくまった様子であった。

「筑前どのには、お寝みのようでございますが」

「オ。法印か」

「……どうぞ、そのまま」

「蚊帳の中に臥せったままじゃ。無礼はゆるされよ」

「なんの。今、御近衆にうかがえば、お城より帰らるるとすぐお茶を召されてお籠りの由。お案じいたしましたが、火急、お耳へ入ればやと、夜中を冒して参りましたので」

「何ぶん二日の会議で、心もいため、体もちと無理をしたのでな。……が、夜中、急に来たとは」

「はい。……羽柴どの」

法印は急に声をひそめ、

「明日、御城内での、三法師さまお跡目立ちの御祝宴には、お出ましのおつもりでございまするか」

「さ。……何せい、きのうもきょうも、薬を服んでは、怺えて来たような体の調子。多分、暑気あたりかとも思わるるが……さりとて、登城を欠けばまた、うるさかろうしの」

「左様に御気分のすぐれぬのは、それこそ虫の知らせというものでございましょう」