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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
自然、まごついている者は置き残されてしまう。けれど扈従もよく馴れていて、秀吉の身世話は、刻々に顔をかえて行われ、支度のできた者が来て代ると、前の者が退いて、忽ち、物の具を引っかつぎ、われおくれじと、後について来るといったふうであった。
宿の前は、伊勢路と美濃の往来になっている。秀吉は納屋の横を通って、そこへ向っていた。
――と、さきに召しをうけた大島雲八光義が、よたよたと追いすがって来て、
「光義、参りました。御用の旨を承りまする」
と、立ちどまった人影の前へまわってひざまずいた。
大島雲八は七十六の老武者であった。一子の茂兵衛光政は丹羽長秀に仕えていたが、この老父は早くから秀吉に傾倒していた。その持城が美濃の関にあった関係もある。
「老人か。御苦労御苦労」
秀吉はその老体をいたわりながら、雲八が若い者に負けず、早くも甲冑を着けて来たのに目をとめて、
「やれやれ、物の具までには及ばなかったものを。――頼みおく用は明朝のこと。お許は、後に留まっておれ」
「明朝。清洲のお城へ参りますので」
「それよ。さすがは年の功、よう察した。――筑前こと、持病に悩み、昨夜、にわかに長浜へ帰国、残念ながら御祝事には列し難ければ、諸事よろしくと、城中へも、柴田へも申し入れておくのだ。