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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「勝助は、どう思う」

めずらしく勝家が彼に意見を求めた。――日頃、玄蕃のようでなく、何となく主君から疎まれていることを知っている勝助は、常に口数を慎んでいるふうであったが、このとき、

「されば、玄蕃どのの御意見、至極と思われます」

と、神妙に答えた。

血気はみな、戦意に燃えている中で、若いくせに、水のように冷やかでいる勝助の容子は、勇に乏しく、ただこの場合、ぜひなくそう答えたように見えた。

「勝助までが、左様にいうなれば、玄蕃の意にしたごうて、このまま、押し進むといたそう。――が川を打ち越えたら、直ちに、大物見を出し、うかつに、道を急ぐな。足軽多くを先に立て、槍隊をすぐ続かせ、鉄砲組は、後陣の先へ置け。――伏兵の起る際は、得て、鉄砲は近すぎて、咄嗟の用にはたたぬものよ。――敵ありと、大物見の合図あらば、すぐ押太鼓を鳴らし、寸毫乱れをみせるな。組頭どもは、勝家が麾の手もとに眼をあつめよ」

方針はきまった。

人数は、揖斐川を渡り出した。

何事もない。

赤坂方面へとなお進む。

敵影まだ見ず――である。

大物見(斥候隊)は、ずっと離れて、垂井の宿附近まで出ていた。