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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
「先ずまず、おつつがもなく――」
「真ッ黒にはおなりなされたが、お元気はいちばいのようにお見うけ申された」
「なんと、御武運のめでたさ」
と、ほっとしたような声が全城に聞かれた。
留守居の衆の心では、この城へ無事に主人を迎える日があるか否かすら、今朝まで確信もなく案じていたところである。
――で、今、秀吉の泥まみれな姿を見ると、その眼は、熱くならずにいられなかった。余りの歓びに度を外して、大廊下を往来するにもつい駈け足になり、互いに告げる用事も声を弾ませ合うので、秀吉が本丸へ入った後も、城内は物音でいっぱいだった。いや城下もまた馬のいななきや兵の声で沸いていた。
秀吉は本丸に坐るとすぐ、
「何よりは、一風呂浴びたい、湯殿のしたくを」
と、小姓にいいつけ、さて、
「骨折り骨折り」
と、自分の苦労は忘れて、他の者をねぎらっていた。
留守居の将、小出播磨守と三吉武蔵守も、彼の前に平伏していた。
ふたりは、主人の帰着を祝してから、長浜からの使いが別室に待っていること。またほかにも一名の客がひかえている旨を告げた。
「御用意がととのいました。御入浴、いつでも」
小姓が伝えて来ると、秀吉はとたんに起ち上がって、