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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
「よしよし、今日から大晦日まで、日頃、扶持取りの者の家族へ、五倍加増してつかわすがいい。ここに籠城する気はないゆえ、城米を蓄えて置くは無用である。――弓、鉄砲の組下や足軽小者などの残る妻子に、せめては煎じ茶のひとつもゆるゆる飲ませてやりとう思う。――その心もちをうしなわずに計らえよ」
「ありがとうぞんじまする」
「そちの退がるついでに、小西弥九郎に、すぐこれへと言伝けせい」
蔵奉行が立去ると、彼はその間に、鎧下着に着かえ、忽ち具足を身につけ始めた。
弥九郎行長は走って来た。
秀吉は、具足の緒を結びながら、陣中の所持金を彼にただした。高松陣の経理は弥九郎の任だったからである。費い余してあるかねは、銀子のわずか十貫目、金子四百六十枚に過ぎなかった。弥九郎がその旨を答えると、
「それだけは持って行け。使者や飛脚に与え、また何かの褒美につかう必要もあろう。よろしい、それだけを聞きおくのみだ」
彼は、浴室を出た。
そしてすぐ、小出播磨守に案内させて、長浜から来て待っているという使者の部屋へ自分から出向いた。
かかるうちにも、彼の心の一隅には、長浜の城にのこしてある老母と妻の寧子の身が、絶えず案じられていたであろうことは、彼なればこそなおさらのものがあったに違いない。