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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

そして一読すると、祐筆に筆を執らせて、

「すぐ持ち帰れ、仔細は書中に」

と極めて簡単な一札を使者に託した。

けれど返書の文意だけでは余りに簡に過ぎると思ったか、使いの者が倉皇として起ちかけると、なお、ことばをもって伝言をたのんだ。

「やがて夜明けと同時に、秀吉は軍をすすめて、きょうにも敵と一戦の覚悟である。すでに敵は眼前にあることゆえ、たとえ味方の諸勢が揃わぬまでも、兵機さえよろしと見れば、いつでも時を移さず交戦に入るであろう。――折角、信孝君をお迎え申して、子としては、父なき御孝道を尽させ給い、臣としては先君の弔合戦、ここは死生も御一緒に、御旗をひとつに、昨朝来、書簡を以て再三御参会を促しまいらせたが、何のかのと御理由のみ立てられて、いっこうお腰の上がらぬ様子。……さもあれば是非なし。悠々、いつまでお待ち申しあげておられぬ場合。後に、お悔い遊ばすことなどないように、丹羽殿も切にお心入れあるこそ輔佐のお役目であろうと。――左様に、筑前が申しおったと、あからさまに伝えてくれい」

使いは恐懼して帰った。使いの者のうけた感じでは、秀吉が多少、癇癪を起しかけているように見えたかもしれない。