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ばんしゅう

晩秋

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页

青空文庫

襖越しに聞えてくる言葉の端はしは、明らかにその事実を示しているのだ。

進藤主計はまだ権力を握っているのだ。

二年まえに藩主の監物忠善が死し、右衛門大夫忠春が家督した。主計は故主の庇護を喪い、用人の職を解かれた。そして今は藩政革新の第一着手として、累年秕政の責を問われ、裁きの座に据えられようとしている。

然もなお彼は権力を握っているのだ。裁かれる身でありながら、その裁きの指図をするほど彼の権力はまだ大きいのだ。

――この家でおこなわれる事は見ても聞いてもならぬ、初めの日に外記はそう云った、――眼も耳も口も無いつもりでおれ。

都留はそれを思いだした。つまり外記もあらかじめ此の家でなにがおこなわれるか知っていたのである、新しい岡崎の柱石とさえいわれる水野外記が、実は進藤主計の不法なおこないを助けていたのだ。都留にはなにもかもわからなくなり、その事の重大さにただ寒気だつような気持だった。

霜月なかばの凍てる夜のことだった。宵のうちに水野外記が来、程なく鈴木主馬と他の二人が来た。この人々が此処で顔を合わせるのはそれが初めてである、かれらは奥の間に集まり、なにか書類を中心にうちあわせ始めた。