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ばんしゅう

晩秋

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页

青空文庫

――同じ道だったのだ、父上が死んだのもこの方の生きたのも、結局は奉公という同じ道だったのだ。

都留はしずかに近寄っていった。

「わたくしお繕い致しましょう」

「うん」主計は糸をひき緊めながら眼をあげた、「……もう済んだ」

実際もう穴はかがり終っていた。主計はそれを穿き、鋏や糸屑や針を、手作りらしい小箱に納った、都留は「お片付け申しましょう」といって、その箱のほうへ手を差出した、主計は渡そうとしながら、ふと思いついたように都留の片手を握った。思いがけなかったし、突然のことでびっくりしたが、でも都留はその手を引こうとはしなかった。主計はすぐに放した。

「おんなの手というものは、温かいものだとばかり思っていたが、案外つめたいのだな」

「つめとうございましょうか」

「ただつめたいのではないのだろうが、もっと温かいものだと思っていた、それとも人に依っても違うのか」

「おんなはからだのつめたいものだと俗に申すようでございますけれど」

ついそう云ってしまってから、自分の言葉のぶしつけさに都留は赤くなり、急いで小箱を片付けに立った。主計は庭のほうへ向き直り、暖かい朝の日ざしを浴びながら、黙って櫟の林を見まもっていた。