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ばんしゅう

晩秋

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页

青空文庫

……警護の人々は十四、五人いた、乗物はじかに玄関へかつぎ入れられた、すべてはひっそりと然も手ばしこく行われ、声を立てる者もなく咳ひとつ聞えなかった。都留は自分の部屋に坐って、昂ぶってくる心を抑えながらじっと耳を澄ましていたが、僅かに人の出入りするけはいと、憚るような衣摺れの音を聞いたばかりだった、そしてやがて、二人の人間の足音が、廊下を通って奥の間へはいった。

都留はそっと座を立ち、手文庫の中から懐剣をとり出した。母の遺愛の品である。都留はそれを両手でしかと握りしめた。そして囁くように、「父上さま」と呼びかけた、「……いよいよ時がまいりました、どうぞ都留の致すことを見ていて下さいまし、そして仕損じのないように力をおつけ下さいまし」こう云って暫く眼を閉じていたが、すぐに懐剣をふところへ差入れながら立った、奥の間で自分を呼ぶ鈴の音がしたからである。――しっかりしなくてはいけない、都留は大きく息をつきながら自分を戒めた、――その時のくるまでは、決して自分の意志を悟られないようにしなければ。

その室には水野外記がいて、敷居際に手をついた都留を進藤主計にひきあわせた、「この者がお手まわりの御用を勤めます、名は都留と申します」