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ほんしゅうおうだん かんしゃくとほりょこう

本州横断 癇癪徒歩旅行

押川 春浪

「冐險世界 第四卷第拾貳號」博文館、1911(明治44)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,749 字 · 45 页

青空文庫

しかしこんな事に凹垂れる吾輩でない、などと先頭に立っているので大いに得意になり、津川子と共にエイヤエイヤの掛声を揚げて攀登る。雨は漸く霽れたが、流るる汗は滝のごとく、それに梢から滴る露を浴びつつ、帽子もズボンもズブ濡れになって、頓て六、七町も登って上を仰ぐと、嬉しや嬉しや、頭上には古びた神社の屋根らしき物が見える。あすここそ頂上に相違ないと、余りの嬉しさに周章てたものか、吾輩は巌角から足踏み滑らして十分に向脛を打った。痛い痛いと脛を撫でつつ漸くそこに達し、拝殿にも上らず、直ちにその後の丘の上に駆け上ると、ここぞ海抜三千三百三十三尺、高さからいえば富士山の三分の一位のものであるが、人跡余り到らぬ常州第一の深山八溝山の絶頂である。

頂上には一個の石標があって、ここは常陸と下野の国境である事を示す。吾輩はすぐさまその石標の上に跳り上り、遠からん者は音にも聴け、近くば寄って眼にも見よ、吾こそは今日登山競走の第一着、冒険和尚字は春浪なりと呼わったが、音に聴く者も眼に見る者も側なる津川五郎子ばかり。四方の山々は、なんだ人間一疋、蚊のような声を出すなと嘲けっているように見える。