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ほんしゅうおうだん かんしゃくとほりょこう
本州横断 癇癪徒歩旅行
押川 春浪
「冐險世界 第四卷第拾貳號」博文館、1911(明治44)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,749 字 · 45 页
イヤ寝るにも毛布も蒲団も無いので、一同は焚火を取囲み、付元気に詩吟するもあり、ズボンボ歌を唄うもあり。風上にいる者は雨の飛沫を受けるだけで我慢もなるが、風下にいる連中は渦巻く煙に咽び返って眼玉を真赤にし、クンクン狸のように鼻ばかり鳴らしている。
とかくする内に、一同は咽が乾いて堪らなくなって来た。それもその筈だ。汗水たらして激しく山登りをして来た上に、握飯には有付けず、塩からい冷肉を無暗にパク付いたので、迚も堪ったものではない。
「ああ咽が渇く、咽が渇く」との嘆声八方より起る。なるほど八人口々に唸るのだから、これこそ本当の八方じゃ。
なんでもこの山巓を少し降った叢の中には、どこかに岩間から湧き出る清泉があるとは、日中麓の村で耳にしたので、
「オイ、その清泉の所在を知らぬか」と剛力に聴いてみたが、
「一向知らねえだ」と澄ました顔をしている。後から考えてみると、数回この山に登った奴が全然知らぬ道理はない、きっとこの雨の中を汲みに遣られては堪らぬと、自分等も咽の渇くのを我慢して、焚火に噛り着いていたいため、知らぬ顔の半兵衛を極め込んでいたものと見える。
一行は手分けをして、雨に濡う身長より高い草を押分け押分け、蚤取眼で四方八方捜索したが、いかにしても見出す事が出来ない。