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ほんしゅうおうだん かんしゃくとほりょこう
本州横断 癇癪徒歩旅行
押川 春浪
「冐險世界 第四卷第拾貳號」博文館、1911(明治44)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,749 字 · 45 页
と、髯将軍の銅鑼声はまず車中の荒肝を拉ぐ。
汽車、利根川の鉄橋に差し掛かれば、雨はますます激しく、ただ見る、河水は氾濫して両岸湖水のごとく、濁流滔々田畑を荒し回り、今にも押流されそうな人家も数軒見える。遭難者の身にとっては堪ったものではない。禿頭に捩じ鉢巻で、血眼になって家財道具を運ぶ老爺もあれば、尻も臍もあらわに着物を掀り上げ、濁流中で狂気のように立騒いでいる女も見える。融通の利かぬ巡査でも見付けたら、こんな場合でも用捨なく風俗壊乱の罪に問うかも知れぬが、今は尻や臍の問題ではない、生命の問題である。近来、殆んど連年かかる悲惨なる目に遭い、その上苛税の誅求を受けるこの辺の住民は禍いなるかな。天公桂内閣の暴政を怒るか、天災地変は年一年甚しくなる。国家のため実に寒心に堪えぬ次第ではないか。
しかるに、走り行く此方の車内では、税務署か小林区署の小役人らしき気障男、洪水に悩める女の有様などを面白そうに打眺めつつ、隣席の連れと覚ぼしき薄髭の痩男に向い、
「どうです、一句出ましたぜ、洪水に女の股の白きかな――ハッ、ハッ、いかがでげす」などと、嘔吐のごとき醜句を吐き出せば、側の痩男は小首を捻って、