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ほんじょみぞれがし

本所霙河岸

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,115 字 · 24 页

青空文庫

三の一

――もう駄目、駄目。

松枝は胸いっぱいに叫びながら、走って行って自分の居間へ泣き伏した。

――なんという変りようであろう、五年振りで帰るのにあの泥酔、父の仏前を訊ねるでもなく、いきなり金を無心して乱暴狼藉するなどと。

――なんとしたことか、なんとした。

松枝は身もだえして泣沈んだ。お繁も慰める言葉を知らず、ただ茫然と袂を噛みながら立竦んでいた。

三の一

「ど、どうか、命ばかりは」

「――斬りはせん、こちらへ来い」

「このとおり、へえ、風呂の帰りで、鐚銭も持っちゃあいねえんで、どうか御勘弁を」

「金ならこちらからくれてやる、来い」

まっ暗がりの四つ目河岸である。――二三日まえからめっきり春めいてきたいい陽気に、風呂帰りを川風に吹かれて、鼻唄なんぞを唄いながら通りかかった闇の中から、いきなり白刃をつきつけて現われた浪人者があった。

「用があるから来いと云うのだ、下手に騒ぐと斬るぞ!」

「へえ、へえ参ります、参りますから」

「そこの原へ入るんだ」

抜身で追いながら空地へ入ると、

「そこらでよし」

「――へえ」

「おまえや組の鳶で銀太という者だな」

「さようで、銀太って者でござんす」