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ほんじょみぞれがし
本所霙河岸
山本 周五郎
「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,115 字 · 24 页
三の三
「なに、ちょっと訳があって昨日まで茶番をしていたんだ、しかしもう用が済んだから衣装を脱いで来たところだ、――さあ支度をしてくれ、これから一緒に出掛けよう」
「どうもまるで訳が分りません」
「なにおいおいと分るさ」
「いったいどちらへ参るんです」
「霙河岸の道場だ、早くしてくれ」
庄兵衛は狐につままれたような顔で支度に立った。
道場の人々がどんなに驚いて迎えたかは云うまでもあるまい、先日の落魄しきった酔漢ぶりを見た人々には、まったく人が違ったかと思われるくらいだった。――知らせを聞いて現われた千之助も、
「おお、――これは……」
としばしは自分の眼を疑う様子であった。
「先日のお詫びに参った」
省吾は静かな口調で、「先生の御位牌に焼香を仕りたい、お嬢さまにそう申上げてくれぬか、枉げてお赦しを願うと、――佐渡屋、おまえ一緒に行って口添えを頼む」
「へえ、……では御免を蒙ります」
千之助があいだで邪魔をせぬようにと、あらかじめ先手を打ったのである。
省吾は仏間へ通された。
三の三
師の霊前にしばし黙祷していた省吾は、やがて座をすべって松枝の前へ両手を突いた。
「お嬢さま、先日の無礼は幾重にもお赦しを願います、その節頂きました百金は、そのまま手をつけずにこれへ持参致しました、――破門をするとおおせられたお言葉と一緒に、どうぞお納め