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ほんじょみぞれがし
本所霙河岸
山本 周五郎
「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,115 字 · 24 页
一の一
一の一
「こう親爺、肴はもうこれっきりか、一人あたま五匁と張込んであるんだぜ、のこにぬたに鱈昆布はひどかろう」
「鱈昆布もいいが見ねえ、おいらのはまるっきり昆布昆布だ」
「や組の喜三兄哥が一世一代の奢りなんだ、一度あって二度とはねえ公方様の御参内ってえところだぜ、刺身ぐれえ気張ったらどうだ親爺」
本所北詰橋の河岸にある居酒屋『鶴七』の店はいっぱいの客であった。なかにも八間の燈の下に陣取った町火消とみえる七八名の若者たちは、もうだいぶ酔が廻った様子で頻りに店の主人をからかっていた。
「驚かしちゃあいけねえ」
主人の鶴七は鍋前から、
「この不漁に刺身だなんてお大名の沙汰だ、鶴七は手妻遣いじゃあねえよ」
「嘘をつけ、この酒なんざあ相当の手妻物だぜ」
「濁酒じゃあねえからな喜三さん、こっちに云わせりゃあ一人あたま五匁とはずんだおめえのほうがよっぽどいかがわしいや」
「おっ、云やあがったな親爺」
喜三郎という、頭に白く晒木綿を巻いたのが腕捲りをする、――と側にいた一人が、
「いかがわしいといえば」
と急に身を乗出した、
「霙河岸の西脇道場の火事のとき変なことがあったのを知っているか」