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とうきょうじんのだらくじだい

東京人の堕落時代

杉山 萠円

「九州日報」1925(大正14)年1~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,226 字 · 247 页

青空文庫

鳥打はインバネスを脱いで、帽子と一緒に壁にかけた。記者もその真似をした。

二人は卓子を隔てて差向った。

擬い大島を着た二十ばかりの美青年である。「案外若い」と記者は心の中で驚いた。

何も云わぬのに美しい女給が珈琲を二ツ持って来た。

青年は飲んだ。

記者は飲まずに云った。

「何か御用で……」

青年は飲みさした茶碗をしずかに置いた。片手を懐にして肩を聳やかした。

「先刻のノートを出し給え」

記者は又可笑しくなった。彼等の話を書き止めていたと思っているらしかったから……。

しかし記者は素直にノートを渡した。

青年は、「籠の鳥」の歌や看板の珍文句なぞを、たった二三枚だけ書いた本社用の新しいノートを見ていた。最後に表紙に付いた本社のマークをジッと見詰めて、当惑した表情をした。そうしてしきりに襟元を繕った。

記者はもう大丈夫だろうと思った。思い切って微笑しながら云った。

「失敬ですが、君は不良青年でしょう」

青年はハッとした。記者の顔をギラギラ睨みながら真青になった。

記者の胸の動悸が急に高くなって、又次第に静まって来た。同時に自分でも気障に思われる微笑が腹の底からコミ上げて来た。