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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

彼も、もう四年生である。今日は、午後武道の時間だったらしく、垢じみた柔道着をいいかげんにまるめて手にぶらさげていたが、道江にはあいさつもしないで、それを自分の机の近くにほうりなげると、すぐ次郎に言った。

「きいた? 朝倉先生のこと?」

「うむ、――きいたよ。」

次郎は、あまり気のりのしないらしい返事をした。

「きいていて、すぐ帰って来ちまったの?」

まるで詰問でもするような調子である。次郎にくらべてやや面長な、いくぶん青味をおびた顔に、才気がほとばしっており、末っ子らしいやんちゃな気分が、その態度や言葉つきにしみでている。

次郎は答えない。

「みんなで君をさがしていたよ。」

俊三は、いつの間にか次郎を君と呼ぶようになっていたのである。

「僕を?」

「そうさ。でも、見つからないので五年の連中が四五人でうちにやって来ると言っていたんだ。」

「そうか。」

「もうじき来るだろう。来たら道江さんはいない方がいいね。」

それは決して俊三の皮肉ではなかった。次郎は、しかし、少し顔をあからめて道江を見た。さっきからのこともあり、二重の意味でうろたえたのである。

道江はすぐ立ちあがったが、しかし、もうその時には、階段の下には生徒たちのさわがしい声がきこえていた。