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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
そして少しそり身になって両手を腰にあて、えぐるような視線を馬田の方になげた。
みんなは片唾をのんで彼を見まもった。彼に好意をもつものも、反感をいだくものも、彼が数日来の沈默をやぶったということに好奇の眼をかがやかしたのである。
「君は――」
と、次郎は気味のわるいほど底にこもった声で言った。
「君は、新賀が血判をするまえにあれほど念をおして言ったことを、きいていなかったのか。」
「きいていたよ。」
馬田はそっぽをむいて投げるように答えた。硬ばった冷笑が、しかし、彼の落着かない気持を裏切っている。
「きいていて、それをはじめから無視していたのか。」
「まあそうだね。どうせ血染の文章なんか役に立たないってこと、僕にははじめっからわかっていたんだから。」
「すると、君の血判はうその血判だったんだね。」
「血判はうそじゃないよ。血染の文章に敬意を表したのはほんとうだからね。」
「君はただそれだけのために血判をしたのか。」
「そうだよ。」
「君がいま言ってることは本気だろうね。」
「むろん本気だよ。」
「それで君はみんなを侮辱しているとは思わんのか。」
「思わんね。僕はあべこべにみんなを尊敬しているつもりなんだ。