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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
先生は、――」
と、次郎は顔を正面にもどし、
「実は、われわれの願書が県庁でききとどけられても、留任する意志は全然持っていられない。僕は、おととい先生をおたずねして、直接先生の口からそれをきいて来たんだ。」
教室の中でも、廊下でもさわがしく私語がはじまった。
「すると、平尾君が最初主張したとおり、何もやらない方が賢明だったというのか。」
そう言ったのは梅本だった。みんなの眼が一せいに平尾をさがした。平尾は座長席のすぐ近くの机に頬杖をついて、眼をつぶっていた。
次郎もその方に眼をやって、ちょっと答えに躊躇したが、すぐ梅本を見て答えた。
「結果からいうとその通りだ。しかし、僕たちは願書を出したことを後悔する必要はない。願書は、僕たちの希望を表明するただ一つの手段だったんだ。結果を予想して、僕たちに残されたただ一つの手段までも捨ててしまうのは、賢明どころか、道義上のなまけ者だと僕は信ずる。」
平尾の方にまた視線が集まった。平尾は、しかし、相変らず眼をつぶったままである。
「えらいぞ、本田。」
と、少し間をおいて、誰かが頓狂な声で野次をとばした。つづいて、
「しかし残された手段は願書だけではないぞ!」