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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
大山の顔からは、さすがにその満月のような和やかさは失われていなかった。しかし、それでも、口を半ば開き、眼をぱちぱちさしていた様子は、決してふだんの彼ではなかった。
ただひとり、全然無表情だったといえるのは平尾だった。眼をつぶり、頬杖をついたままの彼の姿勢は、まるで次郎の言葉をきいていなかったかのようにさえ思えた。もしそれが彼の作為の結果だったとすれば、彼は、作為の技術においても、級中の首席を占めるだけの力量をそなえていたといえるであろう。
平尾とは反対に、最も目立った、しかも他の生徒たちとはまるでちがった種類の表情をしていたのは馬田だった。彼はそのしまりのない口をいよいよしまりなくしていた。これまで彼の顔にうかんでいた彼独特の冷笑は、あとかたもなく消え、眼だけが、いかにも忙しそうに、次郎と廊下の仲間たちの間を往復していた。それは、仲間たちの顔から一途に何かをよみとろうとする努力のように思われた。
次郎は、みんなの沈默の中に、なかば眼をふせ、しばらく身じろぎもしないで立っていたが、また急に馬田の方に向きなおって、
「馬田! 君は、しかし、まさかあの血書に脅迫を感じたのではあるまいね。