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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

会場は校外の適当な場所で、出来れば川上の実乗院を選ぶこと、等であった。

川上の実乗院というのは、町から一里半ほど北方の、谷川にそった景色のいい真言宗の寺であるが、そこは、もう七八年もまえ、前々校長の時代に彼らの先輩が大ストライキをやった時、食糧その他の必要品を用意して十日以上も立てこもったという、中学生にとっては特別因縁のある寺なのである。

実乗院のことを言いだしたのは馬田であった。次郎は、馬田の未練さに腹も立ち、情なくも思ったが、どうせ朝倉先生は、生徒だけでやる送別会に顔を出されるはずがない、ことに会場が曰くつきの実乗院であってみればなおさらのことだ、と思ったので、強いて反対もせず、すべてを成行きに任していたのであった。

とにかく、こうして朝倉先生の問題に関するかぎり、校友会の委員会は、その日を最後にして沈默することになり、四人の代表が校長室に出はいりすることも全くなくなった。花山校長は、無論それで大助かりだったし、県当局としても、自分たちのもくろんだ父兄会のききめがあったものとして非常に喜んだ。もっとも、血書撤回が実現しなかったのが、まだいくらか不安の種になって残っており、本田父子に対する疑惑は少しも解消しなかった。