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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
隠棲の剣客のような感じのした白野老人と、快活で親切だった日田町の田添夫人とは、ぜひお訪ねして、あの時のお礼を申述べたいと思っている。君もいっしょだと一層面白いのだが、仕方がない。いずれ帰省したら、くわしく報告する。」
とあった。次郎の胸には、懐旧の情がしみじみと湧いた。わら小屋にねていたのを村の青年たちに叩き起されて、白野老人の家につれて行かれたときのことや、田添夫人に見送られて筑後川を下った時のことが、お伽の世界のように思いおこされた。それは彼の現在の世界とはあまりにもかけはなれた世界であった。
「無計画の計画。」
彼は思わずつぶやいた。あの時の思い出ときってもきれない因縁のあるその言葉が、彼の頭の中に、何かほのぼのとした光を流しこんだのである。同時に、彼は、無性に恭一と大沢との帰省が待ちどおしくなって来た。
(朝倉先生の問題については、二人には、ついうっかりしてまだ何にも知らしていない。帰って来たらさぞおどろくだろう。僕たちのとった態度についてもきっと何か不平を言うに違いない。)
一方ではそんなことを考えながらも、彼には、二人の帰省が、すべてを解決する鍵のように思われて来たのだった。