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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

「そうか、じゃ好きなようにせい。」

少佐は言いすてて窓をはなれた。床板をふむ靴音があらあらしくひびいて、少佐の姿が消えると、次郎は、すぐ、もとの白楊の根元に向かって歩き出した。

彼は、しかし、そこに行きつくまえに、掲示台のまえがいやに静かになっているのに気がついて、思わずその方を見た。生徒たちの沢山の眼が、もうさっきから、じっと自分を見つめていたらしい。彼は思わず眼をそらした。が、すぐ立ちどまって、きっとその方を見かえした。沢山の眼のなかには、急いで彼の視線をさけたものもあった。が、多くの眼はやはり動かなかった。その中には馬田の眼もあった。その眼にはかすかな笑いさえ浮かんでいるように、次郎には思えたのである。

次郎はしばらくつっ立っていたが、間もなく思いきったように、掲示台に何かってまっすぐに歩き出した。

彼を見つめていた生徒たちは、すると何かにおどろいたように、一層眼を見はった。しかし、それはほんの一瞬だった。次の瞬間からは、彼らの視線は次第にそれ出し、次郎が彼らの群から十歩ほどのところまで来た時には、もう誰も彼を見ているものはなかった。中には、そ知らぬ顔をして掲示台のまえを立ち去るものもあった。