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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

」

「そうだったかね。」

「どうして今度は出ないのだろう。」

「まだきまってないからだろう。」

相手は、まるでそれを問題にしていなかったらしかった。

「そうかなあ。」

次郎は仕方なしにそう答えたものの、心の中では、相手を低能だと罵りたくなるくらいだった。

(学校は朝倉先生の送別式をおそれている。それで、何とかして、それをやらない工夫をしているんだ。)

彼には、そう疑えてならなかったのである。

間もなく午後の課業がはじまった。次郎たちのクラスは武道の時間だった。彼は剣道場に入って面をかぶりながら、入学後はじめて朝倉先生を知ったのが、ちょうど剣道の時間の直前だったことを思い出し、何か物悲しい気持にさそいこまれた。あの時、自分が、剣道は何のために稽古をするのか、という質問を出したのに対して、先生は、言下に、「見事に死ぬためだ」と答えられ、その意味を懇々と教えて下すったが、それがほんとうに理解出来たのは、いつごろのことだったろう。彼はそんなことを考えながら、稽古の相手を選ぶために向こうの側の列を見た。すると正面に大山がおり、そのすぐ隣りに馬田がいた。

(よし、相手は馬田だ――)