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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
彼は顔をほてらせながら、朝倉先生の顔と俊亮の顔とをぬすむように見くらべた。
そのうちに奥さんが菓子と果物を運んで来た。菓子は袋ごと、果物は籠ごとだった。
「もうお茶のご用意も出来ませんの。でも、すぐ氷が来ますから、しばらくがまんして下さいね。」
そう言って奥さんは菓子の袋をやぶったが、中は丸ぼうろだった。果物籠からは、水蜜桃がみずみずしい色をのぞかせていた。
かなりの速度で、丸ぼうろと水蜜桃とがへって行った。氷がはこばれたころには、もうどちらも大かたなくなっていた。テーブルの上には、雫が点々と落ち、その中央にひろげられた古新聞紙には水蜜桃の皮と種とが、ぐじゃぐじゃにつまれ、部屋じゅうがしめっぽく感じられた。
その間にも話はつきなかった。大沢と恭一と次郎とは、しきりに憲兵隊や県当局に対する憤懣をもらし、朝倉先生は、もっと大きな立場から時代を憂えた。俊亮と奥さんとはいつも聞き役だった。そして、おりおり思い出しては荷物のことなどを相談していた。
最後に話は白鳥会の文庫の始末と、会員の朝倉先生送別会のことに落ちて行った。文庫の始末については中心になる人の問題にはふれないで、ともかくも朝倉先生の提案どおり、一応次郎の家に運ぶことになった。