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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

恭一は、二階で、きょう午前中に運びこんだ白鳥会の文庫の整理に夢中になっており、大沢と次郎と俊三とは、背戸の井戸端で午すぎから取りかかった鶏の解剖――それは大沢の表現だったが――のあと始末やら、畑の水まきやらで忙しかった。また、お祖母さんとお芳とお金ちゃんとは、台所でてんてこ舞いをしていなければならなかった。で、先生夫妻がはいって来たときには、表の方は案外ひっそりしていた。

出むかえたのは、ひとり茶の間にいて、待遠しそうに外ばかり眺めていた俊亮だった。

夫妻はすぐ座敷にとおされた。

「はじめてあがりましたが、大変いい所ですね。」

「全くの百姓家です。見晴らしがきくのがとりえでしょうかね。今夜は月ですから、ゆっくりしていただきましょう」

「はじめての終りに心臓強く構えますかね。」

あらたまったあいさつは、どちらからも言わず、そんな言葉がとりかわされた。夫人はただにこにこして、二人の言葉をきいているだけだった。

間もなくお芳がお茶を汲んで出た。

「はじめまして。……どうぞごゆっくり。」

彼女は、ただそれだけ言って引きさがろうとした。俊亮もべつに紹介しようともしない。