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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

」

「そうでしょうか。」

「あとさきを考える人には、とても出来ないことです。」

朝倉先生の眼には、もう微笑が浮かんでいた。

「しかし、あとさきを考えない点では、先生の方が私よりずっとうわ手ですよ。私には、まだ親もあり子もありますので、免職になるような乱暴なことは、めったにいたしませんからね。」

二人は大きく笑った。

「ほんとうですわ。」

と、朝倉夫人も、笑い声を立てた。

大沢は、それまであぐらをくんだ股に両手をつっぱって、上体を乗り出すようにしていたが、だしぬけにどなるような声で言った。

「きょうはきっと、すばらしい白鳥会が出来ます。」

恭一はうなだれてふかい息をしており、俊三はじっと部屋のすみを見つめていた。ただお芳の顔だけが相変らず笑くぼを見せたまま、無表情だった。

次郎が二階からおりて来た。今度は大っぴらに階段からおりて来たのだった。彼はその場の光景を解しかねたように立ったまま俊亮の顔を見た。

「もういいのか。」

俊亮の方からたずねた。

「ええ、いいんです。」

次郎は朝倉先生の方を見ながら答えた。

「先生も、もうびっくりはなさらないよ。」

朝倉先生の微笑をふくんだ眼が、まだつっ立っている次郎を見あげた。