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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
私は次郎さんのこのお歌を拝見いたしました時に、はっとそのことに気がついたのでございます。自分を忘れることの出来ない自分の醜さに、悩みを感じないでは、白鳥会の精神も何もあったものではないと、そう思いまして、私がそれまで、あんまりいい気な人間であったことに、はっきり気がついたのでございます。そのあと、私は何かにつけ、次郎さんのこのお歌を、良寛さんのお歌といっしょに、心の中でくりかえすことにいたしております……。次郎さんの秘密のお歌をすっぱぬいて、おてんばをするつもりなのが、つい自分のざんげ話のようなことになりまして、まため入りそうな気持になってまいりました。これで失礼さしていただきます。」
みんなの視線は、夫人と次郎とに半々にそそがれていた。そしてやや間をおいて思い出したように拍手が起った。次郎はあごを胸にめりこませるようにして顔を伏せていた。
そのあと、大沢の音頭で座をくずし、みんな窓の近くによって、月を見ながら雑談することにした。
月はもうかなり高かった。満月をすぎてわずかに欠けはじめた光の塊が、横長くひいた雲のへりを真白に光らせてその上に浮いていた。