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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
テーブルには相変らず虫のくった青毛氈がかけてあり、「思無邪」と書いた正面の額も、昔どおりであった。
二人が腰をおろしてからも、黒田先生はなかなか口をきかなかった。そして、じっとテーブルの一点を見つめていたが、二三分もたったころ、やっと思いきったように言った。
「きのうは大変な失敗をやってくれたね。」
「すみません。」
と、次郎は眼をふせた。が、すぐ、
「しかし、あれでけりがついて却ってよかったと思っているんです。」
「けりがついたっていうと?」
「僕、退学になるんでしょう。」
黒田先生は眼を見はった。次郎は、その眼に出っくわすと、かえって気の毒そうに、自分の視線をおとし、
「僕、もうこないだから、この学校には居られないような気がしていたんです。」
「どうして?」
「何だが僕の良心がゆるさなかったんです。」
「良心が? 何かほかにわるいことでもしていたかね。」
「そんなことありません。僕、そんな意味で言っているんではないんです。」
「じゃあ、どうなんだ。」
「僕は――」
と、次郎はしばらくためらっていたが、
「僕は、不正な権力の下で勉強するのが、不愉快で仕方がなかったんです。