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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
ところが、署名者の数がふえるにつれて室内の空気がゆるみ出し、まるでスポーツの応援でもやるような気分でひとりびとりの署名血判がはやし立てられるようになると、もう彼は反対者の出現を期待するわけには行かなくなって来た。事実、彼の一味であったものたちまでが、何の思慮もなく、ただ「男らしく」ありたい一心から、進んで血判をしてしまったのである。そして、そうなると、彼自身も「男らしく」振舞うよりほかに、もう手はなかったのである。
次郎をはじめ、新賀も、梅本も、そうした空気の中で署名血判が進行して行くことに、かなりの不満を感じていた。彼らにとっては、すべてはもっと厳粛でなけれはならなかったのである。しかし、こうしてともかくも校友会の委員がもれなく署名し、血判まで押すことになったということは、何といっても大きな成功であり、めいめいに心のどこかで何か割りきれないものを感じながらも、それとなくおたがいに顔を見合って喜びあわないわけにはいかなかった。
全部の署名が終るまでには、たっぷり一時間半はかかった。紙数は血書の本文を書いた物のほかにザラ紙二枚を必要とした。新賀は一枚一枚それに目をとおした。