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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

しかし、綽名といっしょに、自分の点数ときびしい評語とを知らなければならなかったということは、何といっても最近の大きな試煉であったに相違ない。ある先生は顔をひきつらせてガラス戸のまえに棒立になり、ある先生は一たん顔をまっかにしたあと、強いて微笑をもらした。しかしどの先生も最後には、自分にはまるで関係のないことだ、といったような顔をしてその場を立ち去った。ただ「あざらし」先生だけは、その綽名が自他共にゆるすほど有名になっていて、ごまかしがきかなかったためか、それとも、備考欄にあった通り、事実粗野の稚気ある性格の持主であったためか、その大きな口を思いきり横にひろげて、よごれた上歯をむき出し、天井を向いた鼻の下に灰色のあらいひげを針のように立て、内をのぞきながら、「わっはっは」と笑った。そして、「わしだけは合格の見込があるちゅうのか。どうかよろしくたのむよ。」と言うと、くるりとうしろを向いて、もう一度「わっはっは」と笑い、歯をむき出したまま、むらがっている生徒たちを押しわけて帰って行った。

こんなふうで、校内はその日じゅう決して静かであったとはいえなかった。