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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

彼は、そんなふうに考えて、ひとりでほくそ笑んだ。そして、きょうは、彼にしてはめずらしく早く登校して、それとなく次郎の様子に注意していたが、次郎の様子は、彼の判断を十分に裏書しているように思えたので、彼は内心ますます得意になっていたのである。

しかし、彼は、血書が次郎によって書かれたということを誰にも発表する気にまだなれなかった。それは、彼の自尊心や競争意識が何ということなしにそれを許さない、というだけではなかった。彼にとって大事なことは、ストライキの場合のことだったが、万一にも、それを発表したために、次郎が捨鉢になり、進んでストライキの主導権をにぎるような結果になってしまっては、つまらない。次郎は徹底的にやっつけなければならないが、それには、彼をあくまでもストライキ反対の立場に立たせておくことが必要である。最後まで彼を反対の立場に立たせておき、いよいよストライキ決行という場合に彼が逃げをうったら、その時こそ血書のことを暴露すべきだ。血書まで書いて人を煽動しておきながら、自分だけ逃げるとは何という卑劣さだ! みんなはそう言って彼を責めるだろう。それに、どんなに彼が逃げを打とうと、学校当局や県庁が、血書を書いた本人を主謀者と認めないはずはないのだから、いよいよ面白い。