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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页

青空文庫

きく気になれなかったのである。

街角に立って考えこんでいた次郎は、思いきったように道を左にとった。

朝倉先生の家の玄関はひっそりしていた。案内を乞うと、裏口から奥さんがたすきがけのまま出て来て、

「まあ、本田さん、しばらくでしたわね。さあどうぞ。先生は書斎ですわ。」

次郎は、強いていつもの通りの気安さをよそおって、靴のひもをといた。

「昨日はお父さんがいらっして下すって、きれいなお卵をたくさんいただきましたわ……鶏の方も、本田さん毎日お手伝い?」

「ええ、ときどき。」

次郎は廊下をとおって書斎に行った。朝倉先生は机の上に巻紙をひろげてしきりに手紙を書いていた。もう五六通書きあげたらしく、封をしたのが机のすみに重ねてあった。次郎が敷居のすぐ近くに坐ってお辞儀をすると、

「やあ、いらっしゃい。……ついでにこれだけ書いてしまうから、ちょっと失敬するよ。」

次郎は縁側ににじり出て、あぐらをかき、ぼんやり庭を眺めた。午後三時の日が、庭隅の夏蜜柑の葉を銀色にてらしているのが、いやにまぶしかった。

五六分もたつと、朝倉先生は手紙を書き終えて、自分も縁側に出て来た。

「昨日はお父さんにいいものをいただいてありがとう。