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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

みんなが床についたのは、十一時ごろだった、二階では、お浜がまん中に、その右に次郎、左にお鶴が寝た。さほど寒い夜でもなかったので、寝てみると案外楽だった。三人の胸の中には悲しいまでの喜びが、しっとりしみ出ていた。

むろん、誰もすぐにはねむれなかった。お浜の口からは、校番室の頃の思い出が、つぎつぎにくりひろげられて行った。次郎とお鶴とはほとんど聞き役だった。ことにお鶴は無口で、合槌もめったにうたなかった。それでも、彼女が耳をすましていたことは、何か可笑しい話が出ると、すぐ「くっくっ」と笑い出すので、よくわかった。

お浜の思い出話の中には、次郎の記憶に残っていないことが、かなり多かった。次郎とお鶴がよく乳を争って泣いたこと、それがやかましいと言って先生に叱られ、お浜が一人を抱き、一人をおんぶして田圃道を歩きまわったこと、抱かれた方はすぐ泣きやむが、おんぶされた方はなかなか泣きやまなかったこと、――また、三歳か四歳ごろ、次郎が昼寝をしているお鶴の耳に豌豆を押しこんで、大騒ぎをしたこと、改作爺さんの入歯を玩具にして、一日、どうしてもそれを返そうとしなかったこと、北山の山王祭の人ごみの中で、買ってもらったおもちゃの風車をやたらにふりまわし、若い女の結い立ての髪にそれをひっかけて、その女を泣かしたこと――お浜は、そうした