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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
ことを、次から次に話していったが、次郎にとっては、たいていはもう覚えのないことだった。
「それでも、あたし、坊ちゃんがどんなにおいたをなすっても叱ったことなんて、一度もありませんでしたよ。お鶴の方がしょっちゅう叱られ役でしたわ。その代り、勘さんが、よく坊ちゃんを叱りましたわね。」
次郎は、そう言われて、すぐお鶴の頬ぺたのお玉杓子をつねった時のことを思い出した。そして、そのお鶴がこんなに大きくなって、お浜のすぐ向こう側に寝ているんだ、と思うと、何だかうそのような気がするのだった。
「でも、乳兄弟って、いいものですね。小さい時には、自分の乳をとられたうえ、いつもいじめられてばかりいたお鶴が、坊ちゃんからの手紙っていうと、そりゃ大さわぎで私に読んできかせるんですもの。ほんとの兄弟でも、なかなかそんなじゃありませんわね。」
お浜は、しみじみとした調子でそう言った。次郎は、お鶴の顔を闇の中で想像しながら、きょう学校の帰りにふと頭に浮かんだ「運命」という言葉を再び思い出して、深い気持になった。
お浜にとって、何よりも悲しい思い出は、何といっても、校舎の移転と同時に校番をやめなければならなくなったおりのことだった。