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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
彼女は、その話をし出すと、もう涙声になり、その当時の村長や校長を何かとこきおろすのだった。
「あたしたち、その頃はもう校番をやり出してから、十年近くにもなっていたんですよ。それを、学校が新しくなったからって逐い出すんですもの。あんな不人情の人たちってありゃしませんよ。それに、だいいち、私には坊ちゃんて方があったんでしょう。これで坊ちゃんにもいよいよお別れかと思うと、もう、くやしくって、くやしくって、いっそ一思いに新しい校舎に火をつけてやろうかと思ったこともありましたよ。」
次郎にも、そのころの記憶は、まだまざまざと残っていた。彼は言った。
「僕、あれから、毎日一度は、きっと古い校舎に遊びに行ってたよ。」
「そう? 坊ちゃんも、やっぱり、乳母やにわかれて、淋しくっていらしったのね。」
「でも、あの校舎がなくなって、野っ原になった時には、いやだったなあ。僕、校番室のあとに残ってた石に腰かけて、泣いたことがあったよ。」
次郎は、お鶴から来た年賀状のことを思い出したが、それについては何とも言わなかった。
部屋の中は、しばらくしいんとなった。が、やがてお浜の夜具がもぞもぞと動いたかと思うと、次郎は、もう夜具の上から、彼女の腕に抱かれていた。