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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
01 武州公秘話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页
そのとき法師丸は元服前であったから戦場に出ることを許されず、毎日城の中にあって合戦の模様を聞いては幼い胸をときめかしていた。法師丸は、自分のような子供がいくさに出られないのは仕方がないけれども、武門の家に生れたからには、こう云う場合にせめて実戦の光景を見ておきたい。まだ初陣の功を立てる年頃ではないとしても、今のうちから親しく剣戟のあいだをくゞって、勇士の働きとはどんなことをするものか知りたいと思った。が、牡鹿山の城は筑摩家代々の本城であるから、備えもきびしく、城内の区劃もかなり複雑に出来ているので、なか/\外へ忍び出るような便宜もない。まして合戦が始まってからは人質の監視がやかましい上に、法師丸には桐生家から附き添って来た補佐役の侍がいて、それが何や彼やと世話も焼けば干渉もする。法師丸は自分の部屋と定められた所に一日じっと引き籠っていて、遥かにきこえて来る鉄炮の音や鬨のこえを耳にしながら、補佐役の青木主膳という侍から「あれは寄手が追い崩される物音です」とか、「今度は味方が門内に引き揚げる合図の貝の音です」とか、刻々の戦況を聞かされるだけであった。