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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
01 武州公秘話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页
夫婦は女中共を引き退らせて蚊帳の中に這入ったのはよいが、枕もとで又盃の遣り取りを始めながら、
「ねえ、殿様、ほんとうの女首って、やっぱりこんなものなんですの?」
と、先ず松雪院が尋ねた。彼女はあまり酒を嗜みはしなかったが、それでも酔うと笑い上戸になる方で、殊にその晩は夫にたび/\盃を強いられたせいか、ひどく上機嫌にはしゃいでいた。
「いや、なか/\こんなものではないさ。ほんとうの女首だと、あの、鼻の赤いところが真っ黒に凹んでいて、これよりずっと気味が悪いさ」
そう云われると松雪院は、すぐもうころ/\と笑い出した。
「しかし、そなた、二人きりになって見ると、あの首でもちょっと恐くはないかね」
「あら、ちっとも恐いことなんかありませんわ」
「此の部屋に己がいなかったらどう?」
「いらっしゃらなくっても大丈夫よ。あんな、鼻の赤い首なんか、可笑しくなるばかりですわ」
「だって昨夜、己が剃刀を持って来いと云ったら、急に真っ青になったのは誰だったか知ら?」
「、※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)、あんなことを仰っしゃって!」
「いや、ほんとうだよ、お久よりもそなたの方が真っ青だったぜ」