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ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

01 武州公秘話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页

青空文庫

いよ/\現実に違いないことが分ると、羞耻感がひとしお彼に壓力を加えた。彼の足が一歩々々梯子段を昇って行くほど、逆に彼を引きおろすようにする何物かゞあって、少年は心でそれと闘いながら上り詰めた。豫期した通り昨夜と同じ作業の光景が、同じ五人の女に依って展開されていたのである。しかし女たちの方では、今夜の彼の訪れを豫期していなかったのは云う迄もない。少年がそこに現れたのを見ると、明かに彼女等の眼に不審の色が浮かんだ。重立った三人の女たちは、首をいじくっている手を休めて、まっすぐ少年に凝視を向けたが、一番年嵩らしいのが丁寧に頭を下げると、外の女たちもそれで心づいたように、両手で首を持ったまゝしとやかなしぐさで敬意を示した。彼女等の顔に或る表情がほのめいたのはそのほんの僅かな間だけで、次には再び黙々たる作業が開始されていた。

図

女たちが此の人質の貴公子に儀礼を拂った時、少年は襟元まで赧くなった顔を傲然と擡げて、大名の若君にふさわしい威容をつくろって立っていた。羞かしさやキマリ悪さを胡麻化すためにニヤニヤ笑うような術を彼は知らないのであった。彼は生れながらに武将の子であるから、どんな場合でも、―――まして女たちの前では尚更―――その品格を崩さぬ態度を取らなければならなかった。