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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
01 武州公秘話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页
つまり美しい首よりも哀れな醜悪な首の方が却って羨ましいのであった。
法師丸は生来負けず嫌いの剛毅な少年であったから、此の耻ずべき快感が強ければ強いほど、それだけ激しい自己嫌悪を感じ、出来るだけ興奮を抑制しようと努めたに違いない。間もなく彼は、自分に有るだけの意志の力をふるい起して、その危険な場所から、―――やがては自分をどんなに堕落させるかも知れない奇怪な部屋から、―――身を退けた。そして急いで閨へ戻って眠りについたのは、長い秋の夜のまだ明けきれぬ時分であった。「道阿弥話」には、それから以後の少年の苦悶が刻明に書いてあるが、彼はそのゝち続けて三晩と云うもの、夜になると天井裏へ出かけて行った。行く時はいつも、そんなに恐れるのは卑怯であるとか、意志の力を試すためだとか、何とか彼とか自己を欺いて出かけるのだが、その実あの光景の誘惑が殆ど不可抗力を以て彼を手繰り寄せるのであった。三日の間、自己忘却と悔悟とが代る/″\彼を襲った。梯子段を下りる時は「もう二度と来てはならぬ」と、堅い覚悟を我れと我が胸に云い聴かせながら、夜更けになると、再び熱に浮かされたように寝床を這い出して、秘密の楽園の戸口を慕って行くのであった。