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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
01 武州公秘話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页
よしや二三の者が認めたとしても、近習の小姓か何かゞ月に浮かれてうろついているのだとでも思ったのであろう。
図
各※(二の字点、1-2-22)の陣小屋の周囲には、それ/″\麾下の将卒の紋を染め抜いた陣幕が廻してあり、小屋の入り口には制札が立てゝあり、旗、指物、長柄、などが幕の蔭に置いてあった。法師丸はそれらを一つ/\調べて行くうちに、偶然にも丸に分銅の紋の附いた立派な幕が眼についたので、覚えずその前に足を止めた。なぜなら、それこそ薬師寺弾正の定紋であって、その幕の中が寄手の大将の本陣に違いないからである。少年は、幕をかゝげてつと陣小屋の羽目板に寄り添うと、暫く内部の人のけはいに耳を澄ましたが、何の物音も聞えて来ない。建物のうしろへ廻ってみると、裏手が厩になっていて、大将の乗馬らしい五六頭の馬が繋いであり、今はそれらの馬さえも安らかに眠っているのである。法師丸は全く思いも寄らなかった功名の機会が、不意に我が手に委ねられているのを感じた。彼の目的は女首を得ることにあって、必ずしも大将の首を要しない訳だ。けれどもこう云う天与の時を逃がしては武士の冥加に盡きる。