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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
01 武州公秘話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页
のようにも見えたであろう。彼等は最初の勢いにも似ず、じり/\と警戒しながら、そして主人の亡き骸を蹈まないように大廻りしながら、床の間の方へ進んだ。
切先を揃えて迫って来た二人の少年は、床の間の前までは一緒だったが、そこを上ろうとする時に臆病な方が後になった。法師丸は、先に蹈み出した小姓の挙動を見守っていて、その片足が床框へかゝった刹那に、不意に五六尺の距離を進んで一刀を浴びせた。畳一畳ほどを隔てた隅に立ちすくんでいたものが猛然と斬って出たゝめに、小姓ははっとして蹈みかけた足を退こうとしたので、ほんの床框だけの高さが法師丸に利をもたらした。彼は今の一撃が相手の肩へ深く喰い入ったのを見ると、相手を抱きすくむ如くにして第二の突きを横腹に加えた。そして相手が血ぶるいしつゝ大きな艦が沈む時のように倒れきらないでいる間に、もう一人の小姓に襲いかゝった。可哀そうな此の小姓は、既に気を呑まれていて闘う意志はないのだが、主人に殉ずる一念だけで蹈み止まっていたのであろう、彼は法師丸の鋭く打ちおろす剣の光に、眼をつぶるようにして二三合斬り結んだが、それはあきらめたような、申し訳のような、めそ/\泣いているような抵抗だった。