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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
01 武州公秘話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 页
しかし此の顔に一段の威容を添えているものは、疑いもなくその兜である。前述の如くそれには水牛の抱角の脇立があるのだが、その外に尚前方鍬形台の所に、鬼を蹈まえた帝釈天の前立が附いている。次にその鎧の一部が南蛮胴であることも、何となく異常な感を起させる。私はあまり此の方面のことを知らないけれども、南蛮胴と云うものは、天文年中種子ヶ島から鉄砲が伝わった時分に、やはり和蘭人か葡萄牙人が輸入した西洋式の武具であって、恰も桃の実のように真ん中で割れて、その割れ目が高く盛り上り、下部が背中の方へ行く程短かくくびれ上った一種の鳩胸胴である。此の胴は戦国の頃武将の間に甚だ珍重され、後には内地でも模造品が作られたと云うくらいであるから、輝勝がこれを着ていることに別段不思議はないようなものゝ、それでも肖像畫に描くのに此の鎧を選んだのはどう云う訳か。そう云えば一体、此の肖像畫は輝勝が生前自ら絵師に命じて畫かせたものか、或は死後に何人かゞその記憶の中にある公の面影を写したものか明かでないが、いずれにしても公が特に此の鎧を好み、最も多く此れを愛用した證左にはなると思う。
ところで、単に歴史の上に伝わっている武州公と云うものを頭に置いて此の肖像畫を眺めたゞけでは、本多忠勝や榊原康政のそれに似たような豪傑の感じしか湧いて来ないが、ひとたび