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みとばいふ

水戸梅譜

山本 周五郎

「芸能文化」1942(昭和17)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,607 字 · 25 页

青空文庫

「さあ聞きましょう、話して下さい」五郎兵衛の落着いたようすを見て娘も気が鎮まったらしく、たどたどしくはあるがしずかに語りだした。

小次郎母子は十六年まえ此処にいつくことにきまると、亡き五郎兵衛が武士のたしなみとして貯えておいた銀子で、千波ヶ原の一部を開墾しはじめた。そこは土地の豪農くるまや六造という者の所有だったが、荒れるにまかせた土地なので七年は作り取りにきまった。母子はちかくの農夫を三人ほど雇い、自分たちも土にまみれて働いた。はじめはみんな嗤っていた、千波ヶ原は不毛の地ときまっていたので、そこから作物がとれようとは誰も信じなかった。雇われている農夫たちも賃銀がめあてであった。然し母子は愚鈍のような熱心さで土にかじりついた。字にかけば簡単であるが、そういう仕事がどれほどの困難と苦労をともなうものか、おそらく経験のない者にはわからないであろう。母子は心でたたかった、肉躰と同時に、いや肉躰よりも多くその心でたたかった。四年めに一町歩の田と五反の畑から収穫があった。それが付近の農夫たちをおどろかした。千波ヶ原は不毛ではなかったのである。それでまずお梶の父熊七が移って来た。