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りゅうけつせんにしへいく
流血船西へ行く
山本 周五郎
「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,026 字 · 19 页
「俺は、是から彼の船へ乗込んで、怪奇の真相を探査しようと思う。我らの海上から迷蒙の噂を除こうと思う、併せて友船浦島丸の安否をも探るのだ。――然し是には多少の危険が伴うかも知れない。指命はしないから俺と一緒に行きたい者は前へ出て呉れ」
「船長!」「船長!」「船長※(感嘆符二つ、1-8-75)」
言下に全員が進出た。――船長は頷いて、
「有難う、然し五名だけは船へ残って貰わなければならん、それは此船にも危険が無い訳ではない。寧ろ此方の方にこそ恐るべき怪異があると思われるからだ」
海坊主の事を云っているのだな、――伊藤青年はそう思いながら、自分は船長の蔭の方へ回っていた。
人選が定って、短艇が下された時、濃霧が海上を密閉した。伊藤青年はそう云っては船長に許されぬ事が分っていたので、この霧を幸い、無電室を助手に頼んで置いて、素早く短艇の中へもぐり込んだ。
濃霧は渦を巻いて流れる。牛乳の中へでも浸っているようで、すっかり見透しが利かない。流血船の形も、ぼんやりとして、幻のように薄く、影のように揺れている……
絶海の洋上に浮く怪奇の船、半年のあいだ海上の謎だった惨劇の船、それが今、眼前に在るのだ。