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りゅうけつせんにしへいく
流血船西へ行く
山本 周五郎
「少年少女譚海」博文館、1938(昭和13)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,026 字 · 19 页
そう云っている内にも時間はずんずん経って午後三時になった。――もう少しすると霧の来る時間になる、そうなったら益々仕事が困難になる基だ。どうかして霧の来ない内にと、全速力で逆航を続ける……と、それから間もなく、西方海上にぽつりと一艘の船影を発見した。――伊藤青年は双眼鏡を覗いたまま、
「船長、三本帆檣ですね」
「――うん」
「今度こそ流血船ですぜ」
遂に発見した。近寄るに従って、灰色に塗った船体、三本帆檣、半ばから折れた煙突などが段々はっきりして来る。正に噂の流血船だ、怪奇の船だ。――約一時間にして、太平丸は百メートルまで接近して停まる。
「総員甲板へ集れ」
船長の命令一下、定位置員を除いて二十名の屈強な船員たちは上甲板へ集った。――その時既に、北方から猛烈な濃霧の押寄せて来るのが見られた。
「本船は昨夜、浦島丸から無電を接受した。それに依ると我が友船は、この附近に於て奇怪な事件のため遭難したかに思われる、――その原因は向うに見える船だ。諸君も噂は聞いているだろう、あれこそ流血船だ」
「え、――流血船」
「流血船!」
船員たちのあいだにざわざわと囁きが交わされた。